拘置所刑務所の医療被害と悪弊

刑務所・拘置所の医療はひどいものです。診察をしない、薬を出さない、診察しても治療をしない。熱中症で死ぬ者、凍死する者、精神病の薬を止められたために自殺した者、治療を放置されガンが進行した者など、何人もの犠牲者が出ています。刑務所は、裁判で負けても、反省せず、医療を改善しようとしません。 闇に葬られたり、泣き寝入りした犠牲者も数知れず。

刑務所・拘置所での自殺

自殺未遂に懲罰を加える刑務所①

刑務所や拘置所で自殺を図り未遂に終わった人は、懲罰の対象になり、閉居罰などの懲罰を受けることになります。

死者に鞭打つようなことが許されていいのか。

自殺未遂を懲罰にする法的根拠は
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下"刑収法"と略す)です。
七十四条二項には尊守事項の一つとして、自傷行為禁止があり、百五十条で、遵守事項を守らなかった場合は、懲罰を科することができると定めています。 

自殺は自傷行為に含まれるのか?
この点に関して、平成15年の行刑改革会議第1分科会で、宮沢会長と富山調査官の間で次のようなやり取りがありました。

○宮澤(浩)会長 自己に危害というのは,これは自傷?。
○富山調査官 自殺とか自傷。自殺は別ですか,自傷ですか。それも入りますかね,ほかに条文がないですね。

矯正局の調査官でも、自殺が自傷に含まれるかどうか明言できません。
しかし刑務所・拘置所では、自殺を自傷行為だとして、懲罰の対象にしています。


刑収法74条の尊守事項は、刑務所・拘置所の規律と秩序を維持するためですが、
自殺は何故刑務所の規律と秩序の維持に反するのでしょう。
自殺したところで、刑務所の規律や秩序が乱れるのでしょうか?
この点については、行刑改革会議第1分科会第3回会議で富山調査官が以下のように説明しています。

○富山調査官 府中刑務所の遵守事項を整理をしてみまして,例えば収容の確保を妨げるおそれがある行為。要は逃走してしまうとか,職員に見つからないようにこっそり隠れてしまうとか,あるいは自殺をしてしまって自ら命を絶つとか,そういった行為でございます。

収容は生きていることが前提だから、確かに、死んだら収容が出来なくなる。
逃走した者の収容は回復できるけれど、死んだ者の収容は回復できない。
逃走で収容は中断するが、自殺で収容は終了するんだと思う。
収容が終了したら、収容の確保を妨げるようなことは生じないと思うのだが。

自殺が収容の確保を妨げるとしたら、病死だって収容の確保を妨げることになる。
だったら、尊守事項に「病死しないこと」という項目が無いのはおかしいだろう。

病気を罹ったのはその人の責任ではないのだから、病気による死にぞこないを罰しないのは、誰が考えても当たり前だ。
刑務所は、自殺は自分の意志だから、その人の責任だと考えているんだろう。

でも、自殺はその人の責任なんだろうか


次回へ続く
次回、自殺未遂の心神喪失、責任能力と刑務所の懲罰の妥当性を考えてみます。

自殺未遂に懲罰を加える刑務所②

刑務所と拘置所は自傷行為(自殺未遂)をした人に懲罰を加えます。
自傷行為(自殺未遂)は罰を加えるほど悪いことなのでしょうか?

一般社会で自分で自分に悪いことをしても自己責任ですから、自殺で罰を受けることはありません。 罰を受けるのは、他者に対して悪いことをしたときです。

刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律は、第九節(規律及び秩序の維持)74条で遵守事項として「自身を傷つける行為をしてはならないこと」を定めています。
自傷行為(自殺未遂)は規律を乱す行為だから、刑務所・拘置所にとって悪いことだと考えています。 そして、悪いことをしたんだから、懲罰でその責任を取らせるというわけです。
一応理屈は通っているようですが・・・・・・・?

一般社会の自傷行為(自殺未遂)で他者に害が及ぶことがあります。 鉄道が止まったり、子供を道連れにする場合です。 鉄道会社に対して賠償責任が生じますが、民法の規定により、責任無能力の場合は賠償責任を負いません。
民法第713条精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。
 無理心中の場合は、精神鑑定で責任能力を調べます。心神喪失ならば刑法39条で責任を免除します。
刑法39条 心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。

責任能力のない者には責任を負わせることはできないのです。
では、自傷行為(自殺未遂)者の責任能力はどうなっているのでしょうか?

2014年にWHOが自殺の9割は精神疾患だとレポートしています。
うつ病が悪くなると、死にたいという希死念慮や絶望に囚われます。 これらの症状は自分で制御できません。 死にたくないという意思が自殺願望に勝ってる間は自殺を思い止まることが出来ます。 うつが悪化して自殺願望が死にたくないという意思を凌駕するまでに強くなると、自分で自殺を止めることが出来なくなります。このとき、判断能力は衰弱し、行動制御能力は失われています。
自傷行為(自殺未遂)は本心と言えず、心身喪失の推定が働きます。


刑務所も自覚している
 自殺は自分で止められません。精神科医による治療や家族の見守りなど他者の介入収容者は病院に行けません。薬局で薬を買うことも、家族に助けてもらうこともできません。 だから、刑務所・拘置所には、自殺の恐れがある人の安全を確保する法的義務があります。
実際に、国家賠償訴訟では、自殺を防げなかったのは刑務所の安全確保義務違反だという判決が出ています。
病気と精神病の比較


自傷行為(自殺未遂)を懲罰にする刑務所・拘置所の違法性
尊守事項として定めることは、努力義務にとどまるならば合法。
戒告は許されるが、それより重い懲罰は違法。



理由1 責任主義の原則
責任能力の無い人を罰することはできないという、責任主義の原則に反します。この原則は、刑法に止まらず、行政罰にも及ぶ。


理由2 憲法違反
責任主義の原則は憲法31条の適正手続きの内容の一つと考えられるので、自殺未遂を懲罰にするのは憲法違反の疑いが濃い。
審査手続きは裁判ごっこ


理由3 国連被拘禁者処遇最低基準規則にも反する
同規則39条3.規律上の制裁措置を科す前に、刑事施設当局は、被拘禁者の精神疾患又は発達障がいが、規律違反に対する非難の基礎をなす行いや違反行為に寄与しているのか否か、およびどのように寄与しているかを考慮しなければならない。刑事施設当局は、精神疾患ないし知的障がいの直接の結果であると考えられる被拘禁者のいかなる行為にも、制裁措置を科してはならない。

自殺者の遺族から、裁判で賠償責任を追及されることがあるという点では、刑務所にとって悪いことです。 しかし、法律には、尊守事項は刑務所の規律と秩序の維持のためと書かれていますので、裁判を起こされたくないという理由で、懲罰を科すことは違法になります。


刑務所の本音
刑務所の負担増
損害賠償される
刑務所には迷惑なこと
本音で懲罰は無理
脱走と同一視して、収容の確保を困難にするという理由付けをしている。
しかし病気との比較で、

懲罰でうつが良くなることはなく、自殺を繰り返す。
閉居罰はむしろうつを悪化させる。

自殺未遂を懲罰にするのは、やめるべき。

血も涙もないとはこういうことを言うのでしょう。

自殺を防ぐ責任を、本人ではなく刑務所が負うのは、本人は自殺を防げないからです。
病的な自殺念慮や絶望に囚われてしまうわけですから、それを本人に防げというのは無理なわけです。
自殺未遂者には責任能力がないと認めていることになります。
自殺は脱走と同じように収容を妨げる行為というのが、その理由です。


自殺を防げない刑務所を容認する不当判決/遺族の無念

福岡刑務所が自殺を防ぐ注意義務を怠ったとして、国に賠償を命じた福岡地裁判決を取り消した福岡高裁の判決。

自殺までの経過
2013年
1月 福岡刑務所に収監。
4月 自殺を図る。これに刑務所は懲罰を科す。
5月 自殺前日、母親の面会で「死にたいと」言っていた。
自殺当日、面談した職員が幻覚、抑うつ症状確認する。
男性は医師に鬱症状を訴えたため、監視カメラ付きの独居房に移したが、2時間後、タオルとパジャマのズボンをつなげて首をつって自殺既遂。

刑務所が、自殺未遂を懲罰にするのには、あきれるというか、怒りを覚えます。
(#`Å´#)プンプン

地裁判決と高裁判決の違いを見てみる

認識について、
地裁:自殺の前日に面会した母親に「死にたい」と漏らし、当日も職員に幻覚や重い抑うつ症状を訴えていた。 職員らは、男性の精神状態が急激に悪化していることを認識していた。
高裁:男性の一言だけで職員が自殺願望に思い至るのは困難だ。 すぐに自傷行為に及ぶ危険性はないと認識したのはやむを得ない。


自殺の予見可能性について
地裁:男性がうつ病で自殺未遂をしていたことなどから「遅くとも自殺3時間前に刑務所職員が面接した際には自殺の予見可能性があった
高裁:自殺当日の生活や動作の面で特異な様子はなく、自殺に及ぶ危険性を予見するのは困難だった。「自殺の衝動が高まっていると医師が判断していたものの、自殺の危険性を具体的に見てとるのは困難だった。

監視カメラ
地裁:男性が自殺しようと5回にわたり計9分以上、不自然な体勢をとっていたのに、見落とした過失があったと認定。「職員が監視カメラのモニターを観察していれば、容易に異変に気づくことができた。
高裁:監視カメラの映像も重要な部分は捉えられず、自殺の状況はモニター画面の端に小さく映っているだけ。


注意義務
地裁:タオルの使用禁止、監視強化などの自殺を防ぐ注意義務を怠たった。刑務所は自殺の危険性を認識していた、自殺は予見できたのに対策を怠った。監視が不十分。
高裁:自殺が予見できないので注意義務違反無し。


大工強判決への疑問と批判

カメラ付き独居房に移したのは自殺防止が目的ですから、刑務所は自殺の恐れがあると認識しています。
刑務所は、自殺リスクを、「直ぐには自殺しない」と評価したが、実際は、直ぐに自殺しているので、自殺リスクの評価を誤っています。
高裁は、自殺のリスク評価を誤ったのはやむを得ないとし、注意義務違反はないと判決しています。

(1) 自殺が直ぐか直ぐではないかの評価は可能なのか?
高裁判決は、生活や動作面での特異な様子や自殺願望の有無から、自殺の時期を直ぐと評価出来ることを前提にしています。
自殺の時期が予見可能という前提には立証が無く、直ちに自殺する恐れがないと積極的に否定する根拠に欠けます。


(2) 単なる自殺の危険性と直ちに自殺する危険性で、注意義務の有無や程度が変わるのか?
刑務所は、自殺のリスクを"直ぐではない"と評価しましたが、自殺の恐れがないと評価しているわけではありません。 直ぐでなくても、自殺の恐れがあるなら、自殺を防ぐ注意義務を負うはずです。 高裁判決は、自殺は直ぐでないから、注意義務も無いと短絡的に判断をしています。
直ぐに自殺はしないという予断によって、自殺防止措置は疎かになります。 どんな場合でも、自殺予防は最悪を想定してあたるべきです。


(3) 自殺リスクの評価を誤ったのはやむを得ないのか?
a.自殺願望に思い至らなかった
・ 一カ月前に自殺未遂があり、衝動性が高まっていれば、それだけで自殺のリスクが高いと評価できます。
・通常、面会には刑務官が立ち会います。刑務官が「死にたい」との言動を聞いているはずですし、会話をメモしているので、記録が残っている可能性があります。
・自殺前日、面会した母に「死にたい」と言ってました。 死にたい気持ちが止められない、助けてほしいという痛切な思いが込められています。 母は何もしてやれません。 自殺を防げるのは刑務所だけです。 でも、1カ月前の自殺未遂では懲罰になり、うつに懲罰の苦しみが加えられました。 自殺願望を申告したところで、自殺未遂を懲罰にする刑務所に、助けは期待できないと考えて、 面接で自殺願望を述べなかったのではと思われます。
・1カ月前に自殺未遂があったので、それ以前から自殺願望が続いていたと思われます。 抗うつ薬や抗不安薬で自殺願望が消えることはありますが、刑務所は薬を出そうとしないので、投薬治療はされていないでしょう。
1カ月以上も自殺願望に思い至らなかったというのは、刑事施設の収容に関する法律違反ではないでしょうか。
第五十六条  刑事施設においては、被収容者の心身の状況を把握することに努め、被収容者の健康及び刑事施設内の衛生を保持するため、社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるものとする。

・自殺願望で直ぐに自殺の危険があると判断できるならば、面接で聞くべきでした。それをしなかったのは過失と言えるでしょう。
 
b.自殺当日、特異な様子から、自殺に及ぶ危険性を予見するのは困難だった。 自殺の危険性を具体的に見てとるのは困難だった。
・ 特異な様子が具体的に何を指すのか不明ですが、「自殺予防 刑務官のための手引き」(WHO作成、横浜市大医学部訳)に自殺の予兆として、以下のことが書かれています。

1)自殺念慮
2)泣いたり、不眠、動作の緩慢、極端に落ち着きが無い、往ったり来たり歩き回るといった精神の不調
3)気分や食習慣、あるいは睡眠の突然の変化
4)個人の所持品を譲り渡してしまう
5)活動に対する興味や人間関係についての興味の消失
6)服薬の拒否や、服用している薬の増量の要求

これらの予兆が、自殺当日に必ず現れるわけではありません。
自殺の予兆を具体的に捉えるには、ある程度の期間観察する必要があります。
刑務所は、自殺当日の数時間の観察から、自殺の危険性を評価しています。
わずか数時間の観察から自殺のリスクを評価しても、根拠・信頼性に欠けます。
当てにならない評価を下したのは刑務所の過失です。
 
c. 自殺の衝動が高まっていると医師が判断していたものの

・刑務所の医師が衝動性が高いと診断したのには理由が有るはずです。 医師は、自殺の予兆を把握していたと思われます。
刑務所の医師は、自殺のリスクが高いとみていたはずです。
この点で、高裁判決は、医師の判断を軽視しています。

(4)自殺を防ぐための注意義務違反が疑われる措置
a. タオルを引き上げなかった
・ 東京拘置所では、自殺未遂は即タオルを引き上げとなり、自殺の恐れが無くなるまで使用させません。他の刑務所も同じ対応をしているはずです。
・ 自殺未遂後から継続してタオルを使用させていたら、注意義務違反は自殺未遂後から生じていたことになります。
・ 福岡刑務所でも、通常は、自殺防止で独居房に入れる際にタオルを引き上げていたのではないかと思われます。このケースだけ通常の措置を取らなかったとすれば、単純なミスになるでしょう。
・ 懲罰後に自殺の危険性が無くなったと判断して、再びタオル使用させていた場合は、その判断が医師によるものなのか、判断に過失がないかが問題となります。自殺未遂から1カ月程度で自殺の危険がなくなるのは、考え難いことです。

 
b. モニター監視で自殺に気づかず
昼夜間独居では、部屋の中を歩き回ることは禁止され、部屋の中央に終日座っていることになっているはずです。
部屋の中をうろうろしているのをモニターで視認したら、刑務官が注意しに部屋に行くはずです。それをしていないのは不自然です。
モニターを見ていなかった可能性を感じます。
部屋に注意に行けば、自殺は防げたはずで、それをしなかったのは注意義務違反だろう。


監視カメラ付きの部屋に移して3時間後に自殺しています。
刑務所が、こんなに早く自殺してしまうと思わなかったのはその通りでしょう。
でも、そこに油断が有ります。

自殺前の心の変化と体調の変化は、ある程度の時間をかけて増悪します。 絶望感と自殺願望に囚われるようになれば、きっかけ次第でいつでも自殺行動に出る危険性があります。 
1カ月前の自殺未遂、幻覚抑うつ症状、死にたいとの言動、衝動性が高まっているとの医師の見立てを総合的に考慮すれば、普通の人でも、自殺企図の危険性があると判断すると思います。 自殺の可能性があったら、すぐかどうかに関わらず、対策を取るべきではないかと思います。


大工強裁判長は「自殺の衝動が高まっていると医師が判断していたものの、自殺の危険性を具体的に見てとるのは困難だった。
監視カメラの映像も重要な部分は捉えられず、自殺の状況はモニター画面の端に小さく映っているだけで、職員の巡回にも不適切な点があったとは言えない」として1審とは逆に原告の訴えを退けました。byNHK


一審判決は、
 男性が自殺前日に面会した母親に「死にたい」と漏らしたり、職員に幻覚や重い抑うつ症状を訴えたりしていたとし、「職員らは精神状態が悪化していることを認識していた」と判断した。by朝日

 「当日の職員との面談で、男性に幻覚や抑鬱(よくうつ)症状がみられた。自殺の危険性は相当高まっていた」と指摘。「監視カメラ付きの独居房にいた男性が自殺を図る体勢を繰り返していたのに、職員は漫然と見落とした」と判断した。その上で、自殺に使う危険のあるタオルの使用を制限したり、監視を強固にしたりするなどの対策を怠ったとした。by産経

  母親側は「監視や物品制限など自殺を防止するための刑務所の措置は不十分。自殺未遂後には独居房に入れるという懲罰を科し心理的に危険な状態に追い込むなど、安全配慮義務にも違反している」と訴えている。by日経

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